Sitting on the dock of the bay

旅人は、
不思議な体験をした。

言葉も通じない異国の地で
日々の生活に疲れ果て
理想と現実のギャップに悩み
非力な自分自身に失望し
バスに乗って
旅に出た。

狭いグレイハウンドの車内に
20時間以上閉じ込められて
一睡もできなくて
やっと流れ着いたサン・ディエゴ。

公園横から海に突き出した
軍艦がとまるドックの先頭に
フラフラと歩いていく。

一人ぼっちの知らない場所。
真っ暗な真夜中の海。
悲しい気分で
歩いていると
なぜかぽろぽろと
涙がこぼれた。

ふらふら歩きながら
ドックの先頭に差し掛かったころ
スーパーの紙袋を抱えた
老人がうずくまっているのが見えた。

「こんなところに、人がいる…?」

暗闇に現れた汚い身なりの老人は
その紙袋に入れたウィスキーを
ちびりちびりと飲みながら
じろりとこちらをみる。

いまさら引き返すタイミングを失い
その老人の横をすりぬけて
ドックの先頭に立ち
煙草に火をつける。

フーッと煙を吐いたところで
後ろから低い声がして
老人が話しかけてきた。

「お前さんのその煙草を
一本くれないか?」

不思議にいやな感じもせず
差し出したマルボロを
老人は口にくわえる。

火をつけてやると
うまそうに深く深呼吸して
小さな咳をした。

「お礼に一口どうかね?」

差しだされたウィスキーを
思い切ってゴクリと飲み干す。

頭がふわりとして
夜風が気持ちいい。

「俺は海軍のキャプテンなんだ」
「明日出航して、また旅に出る」
「世界中で俺を持っている家族がいる」
・・・

独り言のような老人の
低いつぶやきを背中で聞きながら
ふと周りを見渡すと
暗闇に慣れた目に
美しい岸辺の風景が
ぼうっと浮かんでいる。

老人のポケットに
数本の煙草を押しこみ
振り返って
また歩き出す。

公園にさしかかったところで
ドックの先頭に座っていた
老人の姿を探すが
人影は、もうない…。

気付いたら
さっきまでの憂鬱な気分は
すっかり消えていた。

悩んでいた全てのことは
ちっぽけな世界に思えて
遠い昔のことのよう。

”僕は大陸にいて
自由に飛べる羽を持っている。”

おそらく毎日…
ドッグの先頭で
いつ来るかもわからない
次の旅人を待って
一生煙草をもらい続ける
老人の人生にふれて
旅人は何を感じたのだろう…?

暗闇で
足元だけを見ていたら
何も見えない。

見ようとするから見えない。

見えないのならば
せめて明るい明日を想像する。

目を凝らして
暗闇を見つめれば
そこに何が見えるのか?

未来に心躍らせる。
明日を信じる。

その瞬間に
旅は色彩を取り戻し
人生が開けていく。

ほんの数分間の老人との会話。
瞬間の出来事が
僕を変えた気がした。

不思議な19歳のころの体験。

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