1989年の秋…
僕らのアパートから50マイルほどの
いつものハイキングポイントである
The National Monument に出かけた。

僕らの車のトランクには
Fernandoとガールフレンドが準備した
サンドイッチやスナック、
そしてたくさんのビール。

19歳の僕らは
それぞれの国からやってきて、
この小さな町の、
小さなソサイエティの中で
ようやく自分の仲間を見つけ
愉しみを共有できる
自分の居場所を見つけ始めた。

夜の7時…
The National Monumentの
正門は閉じられても
僕らは”抜け道”を知っている。

小さな旅は
始まったばかり。

若い僕らの間には
言語の壁や
文化の壁は存在しない。
たどたどしい英語でも
19歳と20歳の僕らは
夜通し熱く語り合う。

Fernandoはブエノスアイレス出身。
父親は有名なF1ドライバーで
引退してからは牧場経営で成功した。
彼は不自由無い家庭に育ちながらも
当時のアルゼンチンの体制に失望し
ひとりアメリカを目指した。
なぜこんな小さな町に来たのかはわからない。
「きっと縁だろう…」
彼の口癖。
父の後を継ぐこともなく
新しい道を自分で切り拓く。
野心家で一番ギラギラしていた。
アメリカで過ごした2年間、
僕らはいつも行動を共にし
やがて何でも話し合い、喧嘩し、
笑い、泣き…兄弟のような存在になった。

Matikuは、タンザニア生まれ。
両親の領事館の仕事で
ヨーロッパの国々やロシアなど
様々な場所を渡り住んで
なぜかこんな小さな田舎の学校に一人やってきた。
「一人でアメリカに渡ること」
「誰も知らないような場所に行くこと」
それが彼の両親への
ささやかな反抗だった。
アフリカンである彼の中には
別の反骨心も宿っていた。
肌の色が違う彼は
決してプールには入ろうとしない。
そんな時代でもあった。

僕は宮崎を飛び出し
新しい世界が見たかった。
人と違う人生を歩んでみたかった。
一度世界を頭に描いたら
ワクワクが止められなくなって
世界地図でアメリカを眺めた。
山登りが好きだったので
ロッキー山脈が縦に横切る
コロラドを迷わず選んだ。
大学に書いた、たどたどしい手紙。
返事のパンフレットから
いちばん「山の風景が美しい場所」を選んだ。
Grand Junction というその町は
僕が思い描いていたアメリカの
ワイルドで、どこかやさしい原風景
そのものだった。

Fernando と僕とMatukuは
3人でいつも時を過ごした。

活動的で情熱的、
そしていつも成功への夢を語る
Fernandoと僕に対して
Matikuは物静かにうなずく。

マイノリティの僕らには
怖いものはなかった。
およそ考えつく
あらゆる”商売”を試して
少しずつ小銭をため
少しずつお金を出し合い
右後ろのドアの開かない
クリーム色の中古の車を買い
そして、旅に出た。

僕らはいつも旅をした。

ジョンクーガーメリンキャンプ、ピンクフロイド
ボブマーレー、ブルースプリングスティーン
スティング、U2、ティナターナー
エルトンジョン、ビリージョエル
・・・。

ユタのパウエル湖、ブエノスアイレス、
ニューメキシコ、ラスベガス、
サンフランシスコ…。

数え切れないほどの思い出を
無理やり詰め込むように
小銭を集めては“旅”に出た…。
じっとしていたら
何かを失うような気がした。
それほどに
エネルギーと情熱にあふれていた。

今夜のThe National Monumentも
そんな旅の一つ…。
わずか30分のドライブでも
30時間のドライブでも
僕らにとっては変わらない
ワクワクする冒険。

やがて夜が更けて
時間と空間の感覚が溶けていくころ
Matikuがつぶやいた。

"Wow...Look at the sky!"

それは、見たこともないような
大きな満月。

標高1000メートル以上の
澄んだ空気。

周りには何もない
漆黒の山の中。

満月が山際から上がってくる…

大きく眩しい”月の出”。

眩しくて直視できないほどの輝き。

白く輝いている大きな月が
ゆっくりと姿を現し
のぼっていく。

こんな風景は
初めて見た。

時間が止まって
月だけがゆっくりと動いていく。

宇宙を、地球を、感じて
僕らは息をのんで見つめた…。

どのくらいの時間がたったのだろう?

僕らはそろって涙を流していた。

故郷を思うのか?
やがてやってくる
僕らの旅の終わりを予感したのか?
あまりの美しさに
ただ感動したのか?

理由は分からないけど
大きな眩しい月を見ながら
一緒に涙を流した…。

「10年後、20年後も
それぞれの場所で月を見つめて
僕らのこの瞬間を思いだそう」





あれから20年が経った。

Fernandoは
大好きなThe National Monumentの側に
一軒家を買って
あの夜のガールフレンドとともに
家族となって暮らしている。
一番活動的で野心家の彼が
一番落ち着いた暮らしをしていて
”あの時の場所”にとどまっていることは
僕にとって不思議なこと。
「いつでもお前たちが帰ってきてもいいように
この場所を守っているんだよ」
と笑うが、本心はどうなんだろう…。
自然と一体となった風景こそが
彼の望んだ人生なんだろう。
あのワイルドな場所が
本当に気に入ったんだろう。
野性児らしい、彼らしい人生の選択。
僕にとっては
いつでも「帰る場所」があることは
とてもありがたい気がする。

Matikuは、イギリスにいて
「俺はビジネスで成功した」というけれど…。
あのおとなしく、物静かな彼は
今はいったいどんな生活をしているのだろう?
彼とは20年間、一度も会っていない。
時々Facebookで繋がり
たわいもない会話をする。
僕らが話すことは
いつも20年前のあの夜のこと…。
あの夜の涙を決して忘れない。
あの夜が僕らそれぞれの
心の中に生きていて
僕らはあの夜の中に生きていて
そして20年の月日を一瞬で超越させる。

僕らの旅は今も続いていて
それぞれの心の中で
チームは行動を共にしている。

20年後の、秋の夜…

宮崎にいる、僕。
いつもの立体駐車場から夜空を見上げたら
ぽっかりと満月が浮かんでいた。

目を閉じて瞬きをしたら
一瞬で20年間が過ぎ去っていた。

きっともう一度目を閉じて
瞬きをしたら
20年後の満月を眺めているのだろう。

20年後も僕らは旅を続けている…。

「もう一度あの場所に帰って
3人であの月を眺めよう。」

駐車場の月を眺めながら
彼らにメールを送る…。

一瞬で返事が帰ってきて
僕らは再び繋がる。

"Off course, we will be together again!"

僕は旅を続ける。

野心的でロマンティックな
Fernandoの夢も一緒に抱える。
物静かな中に情熱を燃やすMatikuの
反骨心も、ともに抱える。

20年たった今でも
僕らはチームである。

いつも満月を見上げると
そんな夜を思いだす…。

僕らは、空で繋がっている。

世界中どこにいても
僕らの旅は続いていて
空で繋がっている。

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